セルビスやさしいストーリー『雨の上がりて』

<作者/荒木好美様(一般応募)>
今回の「やさしいストーリー」は、セルビスの葬儀会館「富田林メモリアルホール」でお父様のお葬儀を行った荒木好美様の作品です。
我が家からほど近い所にある富田林メモリアルホール。その前を通るたびに私はいつもやさしい気持ちになります。そして、あの日を思い出します。
三年前の秋のことでした。当時、九十二歳の父はまだまだ元気…と私は勝手に思っていました。週に四日デイサービスに行く際も、季節に合わせ洋服を選び、いつもお迎えの車を待っている。そんな気の若い父でした。毎回必ず送り出しだけは行くようにしていましたが…その日に限ってどうしても行けず「ちゃんと戸締りしてね。」と一人で行かせてしまったのです。『はいよっ。』と明るく笑って言っていたのが元気な父から聞く最後の言葉になろうとは…。
その日デイサービスで倒れた父。救急搬送されてから二週間後の未明、入院先の病院から緊急の知らせが入り、まだ暗い中、車を走らせました。父が亡くなったのです。
それから三日間しとしとと秋雨が降っていました。私には涙雨でした。病院からメモリアルホールへの搬送時には、遠回りになるにも関わらず、父がかつて勤務していた会社の前を通り、また自宅が見える場所でしばらく停まってくださいました。会社を愛し、最後まで施設に入らず我が家が大好きだった父。『おおきに』と父の声が聞こえたような気がしました。
メモリアルホールでの三日間は、もう父がいないという悲しい現実の中、喪失感と、葬儀に向けて決めなくてはいけない事が沢山ある緊張感とが交錯し、どこか異次元にいるような感覚さえ覚えました。
そんな気持ちを察してくださったスタッフの方々は、私の的外れであろう同じ質問にも嫌な顔ひとつせず、どんな相談にも「大丈夫ですよ。」と答えてくださり、控えめながらも的確に、しなやかにリードしてくださいました。それがとても心強く、おかげで私の緊張感や不安感は薄らいでいき、父との別れの時間を大切に過ごすことが出来ました。
父はベッドで生活する介護状態になってからも『畳の上で寝たいなぁ』と、よく口にしていました。そんな事をスタッフの方に何気なくお話したところ、棺の中の父を見るとその下には何と畳が敷かれていたのです。話を聞いたあるスタッフさんが急遽用意してくださったそうで、その上で寝ている父の姿はどこか微笑んでいるようにも見え、残された私達遺族の心さえ癒してくれました。そんな父の姿を見つめていると、大きな手が目に入りました。この大きな手で「高い高い」と抱っこしてもらったなぁと、幼い頃からの父との思い出が頭をよぎり幸せな気持ちに包まれました。それと同時に父の手を握ると冷たくて、もう二度とこの手に触れることが出来なくなるのだと思うと涙が溢れ出て止まらなくなりました。
父はお風呂とコーヒーが大好きでした。リビングのようなくつろげる雰囲気の中、家族皆で湯灌をさせてもらいました。お風呂に入った後のようにさっぱりとした表情の父を囲み、大好きだったコーヒーを淹れて夜遅くまで最後の家族団らんの時間を過ごしました。生前、実家に行っても慌ただしく時間を気にする私に『もう帰るのか』と寂しそうだった父。メモリアルホールでは館内に時計がないことを不思議に思い、スタッフさんにお尋ねしました。時間を気にせず最期の時を一緒にゆっくりと過ごせるようにとの配慮だとお聞きし、細やかなことまで遺族の気持ちを大切にしてくれているのだなぁと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
外は相変わらず雨音がしていました。「あの日、送りに行けなくてごめんね。」「夏頃から家のあちこちを修繕していたね。」そして『もうこれで大体出来たな。』と言っていたね。『最近、ようママの夢を見るわ。』と言っていたから、二人で行く準備をしてたんやね。悲しいけれどちゃんとお迎えに来てくれて、二人で行ったのだと思うと、少し安心しました。
葬儀は単なる儀式ではなく、残された家族がその死を受け止め、故人と心を共に、また前を向いて歩きだす再生の場だと思います。スタッフの方々が悲しみの底にいる私達をやさしく支えてくださったあの三日間があったからこそ、三年を経た今でも、メモリアルホールの前を通る時、私はどこか懐かしく、心が温まるようなやさしい気持ちになります。
翌朝、式が終わる頃、雨も上がり秋の薄日がやわらかく射してきました。コーヒーの香りと沢山の花とやさしさに包まれ父は旅立ちました。スタッフの方々にはこの文面ではお伝え出来ないくらい感謝しています。この冊子のタイトル通り、「やさしい」時を、思い出をありがとうございました。 三日間、常に笑顔で家族のように寄り添ってくださったスタッフの皆様に感謝を込めて、歌人である叔母の歌を贈ります。
温かくやさしく送る弔いに
悲しみ薄る雨の上がりて
(松内喜代子 歌集「土に生きて」より)

※セルビスグループ共栄会主催
セルビス やさしいストーリーコンテスト入賞作品
お客様や従業員、お取引先の方々が、セルビスグループの商品・サービス・仕事を通して体験した、やさしさにふれて心あたたまる物語を集めたコンテスト。沢山の物語の中から、入賞作品を1つご紹介します。
※セルビスグループ共栄会とは
セルビスグループのお取引先約140社で運営している協力業者の会です。